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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)6号 判決

東京都中央区日本橋本町三丁目一〇番地

控訴人

株式会社三共機械製作所

右代表者代表取締役

出倉市太郎

右訴訟代理人弁護士

岡部勇二

東京都中央区日本橋堀留二丁目五番地

被控訴人

日本橋税務署長

金森三郎

右指定代理人

和田英一

月原進

川合弘

鈴木保

右当事者間の昭和四五年(行コ)第六号法人税課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三八年一月二三日付で控訴人の昭和三五年一二月一日から昭和三六年一一月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定(たゞし東京国税局長の審査裁決によつて維持された部分)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する(たゞし、原判決三枚目表九行目「課税所得金額を」の次に「一、四九六万二、九五五円、法人税額を」、同三枚目裏五行目六行目「所得金額は」の次に「一、一九〇万〇一〇〇円、法人税額は」並びに同四枚目表三行目「右の債権に対し原告の」の次に「第一工場、」同行及び次行の「第二工場」の次に「及び社長の自宅等」をそれぞれ加え、同四枚目裏四行目「かつ、現金七〇〇万円を支払つ」を削る。)。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、(被控訴人主張の課税内容について)被控訴人主張のような決定処分のあつたことは認める。決定処分の課税の内容のうち未払利息否認についての主張は争うが、その余の繰越欠損金控除前申告所得額、交際費限度超過額、欄却商品等計上洩れ、支払手形否認、受取手形否認及び繰越欠損金控除額、についての主張は争わない。審査裁決の内容については、取消後の課税所得金額の点(従つて当期の損金に繰越欠損金が算入されなくなつた点)を除き、その余の主張は認める。

二、(第二工場等の代物弁済について) 控訴会社は、本件第二工場等を昭和三三年一一月三〇日に大和銀行に対して負担する六、四〇〇万円の代物弁済として同銀行に引渡し、登記手続は未済であつたが、右引渡しにより代物弁済の効力が生じたものである。しかしながらそのとき大和銀行はその公的立場と登録税を節約するという従来からの商慣習に従つて、控訴会社との間において次のとおりの新たな契約をしたのである。

(1)  本件第二工場は引き続き控訴会社の所有名義としておいて、控訴会社においてこれを保管し、公租公課を納付すること。

(2)  大和銀行は、将来本件第二工場を第三者に売却するのであるが、そのときは控訴会社が売主となつて契約すること。

しかして一般に銀行が代物弁済によつてその債務者から不動産を取得したときに、右のような契約が行われていることは周知の事実であつて、税法上も認められているのである。そして大和銀行は、昭和三六年五月になつて第二工場を大和不動産株式会社に売却して、債務弁済契約書(甲第一号証)、不動産売買契約書(乙第七号証)に見られるような事務処理を行なつたのである。

三、(被控訴人の主張に対する反論)

(一)  被控訴人は、控訴会社の大和銀行に対する本件債務は、昭和三三年一一月期に代物弁済によつて消滅したものではないと主張しているが、右は誤りである。本件債務が昭和三四年一一月期以降も存在していたのであるならば、右債務につき当然に利息が発生した筈であるのに、右利息が発生した事実を証する証拠はない。しかして利息が発生した事実の証明がないということは、その元本である本件債務が昭和三四年一一月期以降存在していなかつたことである。

(二)  控訴会社が大和銀行に対して昭和三二年三月から昭和三六年二月まで引き続き毎月二〇万円ずつ支払つていたことをもつて本件債務が昭和三六年一一月期まで存続していたということはできない。同銀行が昭和三三年一一月期の代物弁済の前後を通じ右二〇万円を元本に充当していたことは、本件債務が昭和二八年一一月期から無利息債務であつたことを立証するものである。又控訴会社が代物弁済後も右金員を支払つていたのは、大和銀行が本件債務の半額にも満たない担保物件である第二工場等を代物弁済として受け取つてくれたこと及び同銀行が右第二工場の値上りを待つて売却して第一工場等の根抵当を解放してくれたことに感謝して、謝例の意味で贈与したものである。

(三)(1)  控訴会社は債務弁済契約書(甲第一号証)に基づき大和銀行に現金七〇〇万円を支払つているが、右は同契約書添付債務明細表第七項の二一六万円及び第八項の四四九万円合計六六五万円の元本及び利息(以下六六五万円の債務という。)として支払つたものであつて、右債務は、後に述べる如く、控訴会社に支払責任がなかつたので、同銀行は特に現金支払いを要求したのである。しかして右七〇〇万円の支払いを要求したのは、第二工場等の鑑定価額が六、四〇〇万円であつたため、前記債務明細表の第一ないし第六項の債務五、七二〇万二、〇〇〇円との差額を埋める事務処理の便法として控訴会社に支払責任のない前記六六五万円の債務をもつてきたのであつて、将来控訴会社から不当利得の返還を求められても差し支えないように別に現金七〇〇万円の支払いを要求したのである。

(2)  六六五万円の債務は、控訴会社に支払責任のない債務である。二一六万円の債務は大和銀行の勘定元帳(乙第八号証の一ないし三)に記帳されていないから、控訴会社の債務ではなく、又四四九万円の債務は三共車輛株式会社の債務であつて、控訴会社が同会社と姉妹会社であるとしても、右債務を弁済する責任はない。

(3)  大和銀行は、本件債務につき七〇〇万円の利息を受け取つたことに事務処理をしているが、右は控訴会社の関知しないところであり、前記債務弁済契約書に明らかなとおり、右七〇〇万円を利息であると契約したことはない。

(4)  以上要するに控訴会社は本件債務の利息として現金七〇〇万円を支払つたのではないから、右金員支払の事実は、本件未払利息の免除を受けたことの証拠となるものではない。

被控訴人指定代理人は次のとおり述べた。

一、課税処分の内容

(一)  (決定処分の内容) 昭和三八年一月二三日付決定処分(旧法人税法-昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの。-においては申告税額零のものに対する処分を決定という。)の内容は次のとおりである。

〈1〉  繰越欠損金控除前申告所得額 一一、二四二、九八七

〈2〉  交際費限度超過額 四九五、〇三二

〈3〉  棚卸商品等計上洩れ 三一六、一三〇

〈4〉  未払利息否認 一八、七六八、四八七

〈5〉  支払手形否認 三、〇六六、〇〇〇

〈6〉  受取手形否認 △六、二二六、〇〇〇

〈7〉  差引決定増加金額(〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉-〈6〉) 一六、四一九、六四九

〈8〉  繰越欠損金控除前所得金額(〈1〉+〈7〉) 二七、六六二、六三六

〈9〉  繰越欠損金控除額 一二、六九九、六八一

〈10〉  課税所得金額(〈8〉-〈9〉) 一四、九六二、九五五

なお、未払利息否認額算定の根拠は、次のとおりである。控訴会社は、第二工場の土地、建物を六、四〇〇万円で売却し、右代金をもつて大和銀行の元本債務及び未払利息の一部に充当し、残余の未払利息の免除を受けた。しかるに控訴会社は帳簿上なんらの会計処理を行わなかつたので、被控訴人において控訴会社が当期末に総勘定元帳に計上していた同銀行に対する借入金四、八四六万六、〇七八円、割引手形六二二万六、〇〇〇円、支払手形二一六万円合計元本債務五、六八五万二、〇七八円とこれまで損金処理により未払利息債務として計上していた二、五九一万六、四〇九円について前記売却代金を右元本債務と未払利息の一部七一四万七、九二二円に充当されたものとみて、未払利息の残額一、八七六万八、四八七円を当期の債務免除益として所得に加算したのである。

(二)  (審査裁決の内容) 前記決定処分のうち〈4〉未払利息、〈5〉支払手形等の益金算入並びに〈6〉受取手形の損金算入については、その基因となつた債務免除等が当期に発生したものではなく、昭和三三年一一月期に生じたものであると認め、次のとおり原処分の一部を取り消す裁決をした。

〈1〉  決定による繰越欠損金控除前所得取消額 二七、六六二、六三六

〈2〉  未払利息否認 一八、七六八、四八七

〈3〉  支払手形否認 三、〇六六、〇〇〇

〈4〉  受取手形認定損 △六、二二六、〇〇〇

〈5〉  事業税認定損 一五四、〇〇〇

〈6〉  差引取消金額(〈2〉+〈3〉-〈4〉+〈5〉) 一五、七六二、四八七

〈7〉  裁決による取消後の課税所得金額(〈1〉-〈6〉) 一一、九〇〇、一四九

なお、右未払利息否認等は昭和三三年一一月期の所得の計算において行うべきものであるから、当該事業年度の翌期に繰り越すべき欠損金一五、六〇八、四八七円の減少を来すことになり、その結果当期の損金に算入した繰越欠損金一二、六九九、六八一円は当期の損金に算入されないことになつた。

二、(課税の適法性) 控訴会社の本件利息債務は昭和三二年一二月一日から昭和三三年一一月三〇日までの事業年度(以下昭和三三年一一月期という。)に代物弁済により消滅したとの主張に対して次のとおり付言する。

控訴会社は、昭和三三年八月から同三六年二月まで毎月二〇万円づつを大和銀行に支払い、同銀行ではこれを元本に充当しているが、これは控訴会社の同銀行に対する債務が昭和三六年一一月期まで存続していたことを前提としなければ理解できない。控訴会社がその理由につき同銀行から世話になつた謝礼である旨主張しているのは何としても納得できないところである。

又昭和三六年三月三一日付債務弁済契約書(甲第一号証)には、控訴会社と大和銀行の間において控訴会社がその所有する不動産の売却代金に加え、金七〇〇万円を支払つて右債務を弁済し、その余の債務が免除される旨記載されており、利息免除の経過が明らかにされているのであるが、このほか、右不動産につき昭和三六年九月四日付で大和不動産株式会社へ所有権移転登記がなされているばかりでなく、控訴会社は現実に右七〇〇万円を同銀行へ支払つているのであるから、昭和三三年一一月期に右債務が消滅した旨の控訴会社の主張は認められるものではない。

三、(金七〇〇万円の支払いについて) 控訴会社が大和銀行に対し現金をもつて支払つた七〇〇万円は、当初控訴会社が第二工場を同銀行に代物弁済として提供するほか、利息として一、〇〇〇万円を支払うことを承諾していたのであるが、その後同工場内の収容物を移転あるいは撒去するための費用として三〇〇万円ないし五〇〇万円を要することとなつたので、右費用相当額の減額方を同銀行に申し入れ、両者折衝の結果減額されたものであつて、当初から利息として支払うことを予定していたものであつて、控訴会社の主張するような性格のものではない。

なお、六六五万円の債務も控訴会社の債務である。即ち、二一六万円の債務は、控訴会社が訴外高砂産業株式会社あて振出した約束手形を大和銀行丸ノ内支店が割引いたのであつて、控訴会社は同銀行に振出人として支払義務を負つているものであり、又四四九万円の債務は、訴外三共車輛株式会社振出の約束手形による債務であるが、控訴会社は手形取引停止処分を受けた後は、右訴外会社を銀行取引に利用していたのであつて、右債務の借入名義は訴外会社であつても、その実質は、控訴会社の債務である。

証拠として控訴代理人は当審証人木俣一雄の証言を援用した。

理由

一、控訴会社が昭和三六年一一月期の法人税について課税所得金額を零と確定申告したところ、被控訴人は、その主張のような理由で昭和三八年一月二三日付で課税所得金額一、四九六万二、九五五円、法人税額五八二万三、〇六〇円の決定処分並びに過少申告加算税二九万一、一五〇円の賦課決定をしたこと、その後東京国税局長は、その審査裁決において原決定の一部を取り消して課税所得金額一、一九〇万〇、一〇〇円、法人税額四四二万二、〇三〇円、過少申告加算税額二二万一、一〇〇円に減額されたこと、本件事業年度の控訴会社の申告所得金額(ただし繰越欠損金控除前申告所得金額)及びこれに加算又は減算すべきもののうち、未払利息否認一、八七六万八、四八七円を除くその余の各金額並びに繰越欠損金控除額については当事者間に争いがなく、右未払利息否認一、八七六万八、四八七円は控訴会社が本件係争事業年度において大和銀行に対する利息債務一、八七六万八、四八七円の免除を受け、同額の債務免除益があつたものとして、これを所得に加算したものであることも当事者間に争いがない。

二、そこで本件係争事業年度において控訴会社に右の免除益があつたか否かについて判断する。

(一)  控訴会社が昭和三三年三月頃まで毎期大和銀行に対する未払延滞利息を損金に計上し、昭和三六年三月頃まで第二工場の土地、建物を資産に計上し、右土地、建物に対する公租公課を負担し、かつ、同銀行に対し毎月二〇万円ずつ支払い、同銀行ではこれを控訴会社に対する貸付金債権元本に充当しているこ、昭和三六年三月三一日被控訴人主張のような内容を記載した債務弁済契約書(甲第一号証)が作成され、控訴会社が同銀行に現金七〇〇万円を支払つたことは、いずれも当事者間に争いがない。これら当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第七号証、同第八号証の一ないし三、同第九号証の一ないし四、原審における控訴会社代表者出倉市太郎の尋問の結果により成立が認められる甲第六号証、原審証人斎藤武夫の証言により成立が認められる乙第一ないし第五号証、原審証人佐武達夫、同外山敏夫、同斎藤武夫の各証言、原審における控訴会社代表者の尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  控訴会社は昭和二八年手形の不渡により取引停止処分を受けて倒産した当時大和銀行に対して約九、〇〇〇万円の負債を有していたが、同銀行は、遊休不動産の処分及び預金相殺でその一部を回収することができ、漸く昭和三二年八月頃から毎月二〇万円の返済を受けるにとゞまり、債権の整理は遅々として進捗しなかつた。

(2)  大和銀行と控訴会社間において第一、二工場あるいは社長自宅等の担保不動産の処分等についても折衝が行われたが、価格の点等で纒まるに至らなかつた。昭和三三年一〇月頃控訴会社より第二工場の土地、建物を売却して同銀行の負債元本の弁済に当てたい旨申し出てたが、早急に適当な買手も見つからぬまゝ、むしろ右元本債務の代物弁済として右工場の土地建物(もつとも控訴会社もその価格を評価したわけではない。)を提供したいと申し出たが、結局双方で買手をさがすことになつた。なお、控訴会社は、翌期からも従前どおり同銀行に対する債務を負債に、前記土地、建物を資産にそれぞれ計上していた。

(3)  その後も控訴会社と同銀行との間で債権整理に関し、折衝を重ねたのであるが、昭和三五年控訴会社より次のような提案がなされるに及び本件解決への本格的交渉が始つた。控訴会社の申し出た支払いの条件は、手形貸付五、五八七万六、〇〇〇円及び本件六六五万円の債務の各元本並びに手形貸付債権の延滞利息のうち一、〇〇〇万円を支払い、その余の延滞利息を免除し、手形割引による元利金(八八三万五、〇〇〇円-昭和三五年三月三一日現在)を棚上げにするというものであつた。右提案に対し銀行側からも債権元本の免除はできないが、延滞利息の利率を日歩一銭に減免する等の代案を出し、折衝した結果、昭和三六年三月三一日合意に達し、債務弁済契約書(甲第一号証)記載どおりの内容の契約を締結した。

(4)  しこうして右契約の内容は、控訴会社が同日現在で同銀行に対して債務六、三八五万二、〇〇〇円及びこれに対する完済までの未払利息債務を負つていることを確認し、その弁済方法として控訴会社は第二工場の土地建物を大和不動産株式会社に六、四〇〇万円で売渡し、同銀行が代つて右売却代金を受領し、控訴会社は同銀行に別途七〇〇万円を支払い、右売却代金との合計七、一〇〇万円をもつて前記債務元本及び延滞利息の一部に充当し、延滞利息の残額については免除する、というものである。

(5)  なお、右現金七〇〇万円の支払いについては、控訴会社は当初一、〇〇〇万円を申し出ていたが、その後第二工場の建物内の収容物撤去のために三〇〇万円ないし五〇〇万円を要するので、五〇〇万円に減額の申出をなし、種々折衝の結果七〇〇万円に歩み寄つたものである。

(6)  控訴会社の大和銀行に対する債務についての約定延滞利息日歩二銭四厘で計算すれば、昭和三六年三月一〇日現在の前記債務の延滞利息の合計は四、九一五万九、〇〇〇円に達する。控訴会社では昭和三二年一一月期まで延滞利息を計算して勘定元帳に記帳していたが、翌期からは、右利息を計算することなく、昭和三六年一一月期までは、昭和三二年一一月期の延滞利息二、五九一万六、四〇九円を記帳している。

(7)  控訴会社は、前記契約に基づき同年五月二四日付で第二工場の土地、建物を大和不動産株式会社に売渡し、又同年六月三〇日大和銀行に七〇〇万円を支払つたので、同銀行では、七、一〇〇万円を債権元本六、三八五万二、〇〇〇円に充当し、土地鑑定料その他諸費用一二万一、九〇〇円を支払つた残額七〇二万六、一〇〇円を延滞利息に充当処理した。同年八月二日控訴会社が同銀行に設定していた元本極度額一億円の根抵当権の設定登記が抹消された。

(二)  控訴会社は、昭和二八年一一月頃大和銀行から同銀行に対する爾後の約定利息債務の免除を受け、仮りに然らずとするも昭和三三年一一月三〇日当日現在で同銀行に対して負担していた元本五、八〇七万六、〇〇〇円及びこれに対する利息等一切の債務のために同銀行に第二工場の土地、建物を代物弁済に供し、もつて債務は消滅したものであり、その際大和銀行との間に控訴会社主張の如き内容の契約を締結したと主張する。いずれも成立に争いのない甲第二ないし第四号証、同第五号証の一、当審証人木俣一雄の証言、言審における控訴会社代表者の尋問の結果中右主張にそう記載もしくは供述部分は、前記各証拠と対比して措信し難く、他に右事実を認めるに足る証拠はないばかりでなく、前記認定の昭和三五年以降の債権者、債務者間の折衝においても延滞利息の減免がその主要点であり、結局控訴会社の申出どおり一、〇〇〇万円に減免するところをさらに七〇〇万円に減免された事実(控訴会社は、大和銀行の要求により控訴会社に支払責任のない六六五万円の債務も併せて支払うことにしたため、同銀行は将来の不当利得返還請求に備えて別に現金七〇〇万円の支払を要求したものであつて本件債務の延滞利息のために支払つたのではないと主張するけれども、前掲乙第一号証、同第八号証の三、原審における控訴会社代表者の尋問の結果によれば、右六六五万円のうち二一六万円の債務は控訴会社振出手形を同銀行が割引いたものであつて、控訴会社は手形振出人として支払義務があり、又四四九万円の債務は三共車輌株式会社に対する手形貸付によるものであるが、控訴会社は、手形取引停止処分を受けた後は、同会社を設立して大和銀行との取引に利用していたものであつて、右債務は実質において控訴会社の債務であることが認められ、控訴会社の主張を認めるに足る証拠がないから、右主張を採用することはできない。)、控訴会社では昭和三六年一一月期まで総勘定元帳に遅延利息-もつとも昭和三二年一一月の利息額であるが-を計上していた事実並びに控訴会社では昭和三六年三月頃まで第二工場の土地、建物を資産に計上し、右土地建物の固定資産税を負担していた事実(控訴会社は右は大和銀行との契約に基づくと主張するが、右契約の認められないことは、前認定のとおりである。)、昭和三三年以降ことに昭和三五年に至り本件債権整理に関し大和銀行及び控訴会社双方が種々条件を出して折衝を重ねた結果漸く前記合意に達した事実、控訴会社は本件債務弁済のため昭和三六年二月まで毎月二〇万円ずつ支払い、同銀行はこれを本件債権の元本に充当していた事実(控訴会社は右二〇万円は同銀行の措置に対し謝意を表するための贈与であると主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。)に撤するときは、控訴会社の前記主張は採用するに足らないものというべきである。

もつとも前掲乙第八号証の一ないし三、原審証人外山敏夫、同斎藤武夫の各証言によれば、大和銀行では、本件債権の未収の延滞利息についてはその貸付台帳に計上していないが、これは大蔵省の行政指導により一般に未収利息は計上しない取扱いとなつていることが認められ、又控訴会社が毎月支払つた二〇万円については大和銀行は債権元本に充当したことは当事者間に争いがないが、前記証人の各証言によれば銀行において債権の整理、殊に多額の債権の整理に当つて一部弁済があつた場合には、まず元本に充当する取扱いをする例が多いことが認められるから、これらの事実をもつて前記認定を左右することはできない。又成立に争いのない甲第四号証によれば、控訴会社と大和銀行間の債務不存在確認請求控訴事件について昭和三七年七月一一日大阪地方裁判所において、同銀行は控訴会社に対して貸金元金六、四〇〇万円に対する昭和三三年一二月一日以降昭和三六年六月三〇日まで日歩一銭の割合による利息債権六〇四万一、六〇〇円の存在しないことを確認する旨の判決が云渡されたことが認められるけれども、右甲第四号証、成立に争いのない乙第六号証の二、四、原審証人大森興国の証言により成立が認められる同号証の一及び同証言、原審証人斎藤武夫の証言によれば、大和銀行では控訴会社に対し昭和三三年に代物弁済がなされた旨の証明書の公付を断つたところ、右訴訟が提起されたものであつて、控訴会社から証明書に代る方法として訴訟手続をとつたのであつて協力してほしい旨の弁明があつたので、同銀行は、一切迷惑をかけない旨の念書(乙第六号証の二)を提出させ、口頭弁論期日に出頭しなかつたためになされたいわゆる欠席判決であることが認められ、これもまた前記確定を左右する的確な資料たりえないものというべきである。

(三)  してみれば、昭和三三年一〇月頃控訴会社は、大和銀行に対する元本債務五、八〇七万六、〇〇〇円の代物弁済として本件第二工場の土地、建物を提供することを申し出たが、大和銀行としては転売先が見つからぬまゝに右申出を承諾することなく、双方とも適当な買手をさがし、その際あらためて協議することとして、代物弁済契約締結に至らず、その後両者の折衝により昭和三六年三月三一日付債務弁済契約により控訴会社は、同銀行に第二工場の土地、建物の売却代金六、四〇〇万円及び現金七〇〇万円を支払い、これをもつて同日現在の同銀行に対する債務六、三八五万二、〇〇〇円及び第二工場の土地、建物の売却に関する諸経費一二万一、九〇〇円の弁済にあて、残額七〇二万六、一〇〇円を前記債務の延滞利息の一部にあて、延滞利息の残額については免除を受けたものと認めるのが相当である。そして控訴会社が同銀行から免除を受けた延滞利息の額は少くとも控訴会社が昭和三六年一一月期において未払利息として計上していた二、五九一万六、四〇九円(昭和三二年一一月期までの延滞利息額)から、前記延滞利息の弁済に充当した七〇二万六、一〇〇円を控除した一、八八九万〇三〇九円を下らないものと認められ、従つて控訴会社には本件係争年度において同額の債務免除益があつたものというべきである。

控訴会社は、本件における如く会社が倒産した場合の債務免除益は、一種の貸倒れであるから、それによつて会社の受ける免除益は、益金に算入すべきではなく、かゝる幻の利益ないしは帳簿上の利益に課税することは、実質課税の原則に反すると主張する。その主張するところは、法人の所得は実質的に把握すべきところ、債務者が無資力である場合には債権はすでに無価値に等しいから、その免除があつてもそれにより債務者は利益を受けないのであるから、その計数上の免除益は、益金に算入すべさではないというにあると解せられるところ、本件においては一億円の根抵当権を有していたことは前認定のとおりであり、従つて控訴会社の大和銀行に対する債務が実質的には無価値であり、その免除により控訴会社になんら利益を生じないものとはいいえないから、控訴会社の右主張の理由のないことは明らかである。

三、しこうして冒頭掲記のとおり控訴会社の本件係争年度における法人税の繰越欠損金控除前申告所得額、交際費限度超過額、棚卸商品等計上洩れ、支払手形否認、受取手形否認、繰越欠損金控除金額については、被控訴人の主張のとおりであることは、控訴会社の認めるところであり、未払利息否認額が一、八八九万〇、三〇九円であることは前認定のとおりであるから、その課税所得金額は一、五〇八万四、七七七円となる。しかるところ被控訴人の決定した課税所得金額は、東京国税局長の審査裁決によりその一部が取り消され、一、一九〇万〇、一四九円となつたことは冒頭掲記のとおり当事者間に争いがないところ、右決定金額は、控訴会社の前記実際の所得金額をはるか下廻るものであるから、本件課税処分には何ら違法の瑕疵はない。

四、従つて被控訴人のなした控訴会社に対する本件課税処分の違法を理由にその取り消しを求める本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であつて、棄却さるべきである。

よつて右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 小林定人 裁判官 関口文吉)

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